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漫画『私の少年』 感想

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 漫画『私の少年』。作者は、高野ひと深さん。30代のOLと10代の小学生の心の交流を描く作品。現在、第1巻から第3巻まで出版されている。

 主人公は、多和田聡子(30歳)。スポーツメーカーの会社に勤めるOLで、帰宅途中、早見真修(はやみ ましゅう)という12歳の少年に出会う。夜の公園で、一人でサッカーの練習をしている真修にフットサルの経験のある聡子が、サッカーの練習に付き合うというストーリーから二人の交流が始まる。

 聡子は独身で彼氏はいない。ただ、学生時代に付き合っていた元カレが同じ会社に勤務しているという、聡子にしてみればあまり嬉しくないOL生活を送っている。一方の少年・真修は、実のところ女子といっても間違いない風体。初対面の聡子があっさりと真修を女子と間違えている。そして、この少年が曰くありげな家庭環境にいて、聡子がサッカーだけでなくついついあれこれ面倒を見てあげることになる。

 真修は、サッカーのリフティングを教えてくれる聡子を、初めは親切な人と感じるのだが、彼には母親がいないためか、そしてまだ小学生という歳もあり、徐々に聡子に親しみを感じ始める。あまり警戒心のない真修なのだが、大人の女性からいろいろ面倒を見てもらえる嬉しさと、12歳の少年には難しい家庭、世の中において、聡子は頼りがいのある相手になり、子供なりに聡子を慕い始める。

 ただ問題がある。聡子自身、どこまで少年との関係を続けるのか、ということだ。真修は他人の子だ。たとえば本来なら、初めのサッカーの練習だけで関係が終わっていたはずなのだが、少年の家庭の事情に合わせ、聡子のついついお節介を焼いてしまう性格。もとより他人に親切な性格なのだろう。とにかく、ずるずると少年との関係が続いてしまっていることに対して、聡子も当然、問題ありと自覚している。そして、これがこの後、問題を引き起こしとても辛い出来事に発展してしまう。

 しかし聡子にとって真修と一緒にいる時間は、30歳の独身OLという立ち位置から離れたひと時だ。現実逃避しているわけではないが、初めは大人と子供という立場で少年に接していた彼女も、真修といる時間が長くなるにつれ、少年のことばかり考えてしまう女性としての自分を感じているのかもしれない。ただし少年は、18歳も年下の小学生だけに、あくまで両者の立場は忘れないが、楽しいひと時、心が安らぐ時間と感じているのであろう。

 年上の女性が年下の少年を慕うかのごとく想う感情は、恋愛感情なのか母性愛なのかという問題。どちらか一方かもしれないし、両方の感情を持っていることもあるかもしれない。生物学的に女性は子供を産み育てる訳だし、有史以前から女性に備わっている機能だ。特に原始の昔などでは外敵から子供を守り子孫を残す役割を担っていて、それが現代女性のDNAに組み込まれていることになる。

 一方で男女間の恋愛感情も同様だ。種の保存は生物ならば普通に備わっている機能で、特に人間の場合は好き嫌いという感情を持つ、脳が発達した高等生物なので、年上であろうと何であろうと、人を好きになり、それが恋愛というかたちに発展することになる。

 小難しい話はさておき、この作品は心の動きが一つの見どころで、たとえば主人公の聡子が少年との関係について動揺する時、作品を読む側の読者も同じく動揺しているに違いない。そもそも二人の関係性は、正しいのか、間違いなのか、それが主人公にも読者にも分からない。答えのない問題を解いているようで、正しいのか間違いなのか、この先いつまで経っても分からない世界に読者を引きずり込んでしまう作品なのだ。

 もし読者が主人公と同じ女性ならば、主人公と同じ立場になってしまった時、自分ならどうするだろうか。主人公・聡子と同じく思い悩むか、それとも拒絶してしまうか。これは人それぞれだろう。ただし、先に述べたように、女性には母性本能が備わっているので、女性読者の多くは、聡子に共感する可能性が高いのではないかと感じる。心理学を学んだわけではないので、はっきりとした答えは分からないが、聡子の立場や迷う気持ちを理解もし、中には感情移入する人もいるかもしれない。

 この漫画は人間心理をテーマとした作品だ。そして母性本能を持つ女性にとっては、一つの問題作だと言える。しかしあまり深く考えすぎると迷宮に入ってしまうので、作者の今後のストーリー展開を待ってみるのが良いかもしれない。

 現在、第3巻の続きから新しい展開が起こりそうな感じなのだが、作者はいったい何を語ろうとするのか興味深い。

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