のり弁当 - 漫画の感想ブログ -

漫画の書評や読書感想を書いてます。時々、つぶやきもあります。

漫画『地球に生まれちゃった人々』感想

f:id:ibukiyama:20170418212848j:plain

 漫画『地球に生まれちゃった人々』。作者は長崎ライチさん。独特のエキセントリックさが人気の『ふうらい姉妹』の作者の『お蔵出し』ということで、現在のスタイルに至るまでの、いろいろな作風の短編・中編作品が掲載された作品集である。全12作品が収録されているが、描いた順番はバラバラになっている様子である。また別作の『阿呆にも歴史がありますの』よりもさらに前に描かれた作品なのかどうかも不明。

 作品2と3が最近の作品と思われるが、現代風の作画ではあるものの、それでも携帯電話が存在していなかったころ描かれたものではないかと思われる。また、その他は、アメリカン・コミックの作風に影響を受けていると感じられる作品で、SFやホラーもあり、いろいろなジャンルにチャレンジしていたことが窺える。

 作品2の「清く正しくはみだした人のお話」では、主人公である上久保恭子が仕事探しをする内容なのだが、本人以外の登場する人物が一般人であるにもかかわらず、あまりにもまともではないことから、「嗚呼 脳って不思議」と常識を疑ってしまう主人公の有様が痛快だ。しかし、主人公自身も肝心なところで「阿保」を出してしまうため、両者ともに痛み分けである。

 この作品2での非常に興味深い点は、作者の人に対する鋭い観察力である。日常を非常に注意深く観察している点は、シャーロック・ホームズが異常なまでに観察に重点を置いていることに極似している。人の持つ滑稽な部分を余すことなく捉えている点は、現在の長崎ライチスタイルを、この時期には確立していたと思われる。

 作品11「ゾルムン像」で、ギリシャ彫刻を思わせる像が出てくるが、力強い作画で、作者の画力の高さを見ることができる。昭和時代の絵風の『ふうらい姉妹』。そして巻末に掲載されているカラーイラスト。さらに巻末奥付ページの抽象画風イラストと、様々なタッチの絵を描くことができる作者・長崎ライチさんである。もしかすると、どこかで美術を学んだことがあるかもしれない。

 付け加えると、この作品11あたりからでは、現在の「おバカ」なスタイルは想像できないはずで、徐々に阿保さを増幅させていったと思われる。また、他の作品ではアングラ系やピカソキュビスムを取り入れているものもあり、商業漫画とは一線を画した前衛的な印象を見受けられるのも面白い。

 本作の最後に3点のカラーイラストが収録されているが、1960年代の昭和の童謡絵本に通ずる印象もあるシュールなイラストであり、長崎ライチスタイルを確立するまでの資料にもなる貴重なものである。

 本作は、長崎ライチさんのコアなファンなら非常に興味深く楽しめるはずだ。『ふうらい姉妹』でファンになった人たちにとっては、異色の作品と思うかもしれないが、そもそも作品自体が少ない長崎ライチさんであるので、現在に至るまでの短編作品として楽しめる本作である。自分の常識は他人の非常識、他人の常識は自分の非常識という言葉のとおり、鋭く観察すると地球に生まれちゃった人々はあちらこちらが珍妙な生物なのだ。