のり弁当 - 漫画の感想ブログ -

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漫画『波よ聞いてくれ』 1巻から4巻 感想

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 漫画『波よ聞いてくれ』。作者は沙村広明さん。ラジオのDJとカレー店店員として働く主人公の奮闘を描いた作品。

 好きな男性に50万円を持ち逃げされ、その悔しさから飲み屋で酔った勢いに任せて隣で飲んでいた男性に愚痴を言ってしまった主人公・鼓田(こだ)ミナレ。しかし、その愚痴話が彼女にとってとんでもない出来事を巻き起こす。こともあろうか、ラジオの番組でその話がそのまま放送されてしまうのだ。

 ミナレは札幌の結構、人気のカレー店で働くウェイトレス。仕事はテキパキとこなすが、性格的に男勝りで小生意気な面もあり、自堕落でぐうたらなところもある。将来設計もあるのかないのか疑わしい、そんな彼女だ。皆から愛され慕われるヒロイン的要素は、まず無い。ただ肝は据わっている。結局、愚痴話が放送されてしまったことがきっかけとなり、彼女の滑舌の良さと、素人であるにもかかわらず見事なトークをやってのけ、そのトークのリスナーからの反応の良さを買われて、ラジオ番組のDJをすることになる。

 そして、ミナレをラジオの世界に引きずり込んだのが、ディレクターの麻藤(まとう)。一癖も二癖もある人物。悪い人間ではないが、イメージとしてはダーク。狙った獲物はどんな手段を使っても必ず手に入れるといった印象は免れないし、実際、ミナレを見事にDJにさせる。既成概念をぶち壊す水平思考を持つ。結局、狙いは何だ?第4巻まででは、まだ建前だけしか出ていない。

 ラジオのDJが何を話すのか。一般的だとその日、あるいは近頃話題の出来事を巧みな物言いでしゃべる。もちろん台本もあるが、時にはアドリブを入れることもある。しかし機知に富むその話はリスナーを飽きさせない。それが優れたDJだ。ミナレはこの点で、もともと話し上手な上、アドリブができる。ラジオのリスナーを惹きつける素質はある。

 もちろんこの作品はラジオのDJとしての主人公の活躍を描いているだけではない。家賃が払えずラジオ局の年下の女性番組スタッフの部屋に居候することになったり、クビになりかけの店で従業員に片想いされたり、ミナレのいろいろな私生活が伏線として張り巡らされている。時に、この作品は何の話をしたいのか混乱することもあるのだが。第1巻から第4巻まで読んだだけでは、この作品はこの先どこへ向かうのかわからないと感じる人も少なからずいるのではないかと思う。

 ラジオのDJとしての彼女とカレー店で働く彼女とを対比させつつ主人公の生き様を描く、この作品。しゃべり上手で度胸満点ながら、ディレクターが毎回持ち込む変な企画にあたふたする主人公。出たとこ勝負みたいな、その日暮らし的な生き方をして来た主人公。もっと言えば、どれだけ才能があろうと、どれだけ綿密に将来に対する計画を立てようと、この先、いつ何が起こるかわからない、安心して暮らせる生活。そんなものはこの世には全くないと言いたくなるような現代社会に対する思いをミナレの生き様を通してぶつける。「臨機応変。アドリブで見事に押し通せ!」フレキシブルかつアグレッシブ。これがこの作品の根底にあるのかもしれない。

 作風が夜の世界をイメージさせ、アングラを想像させる点もあり、この作品は読む人によっては好き嫌いがあると思える。ダークな世界。爽やかさなど微塵もないストーリー。主人公のキャラ・活躍如何によっては名作にも駄作にもなり得る、そんな作品である。さらに、危なっかしい、ギリギリの世界が個性的な作品だとも言える。ハッピーエンドばかりではない、綺麗ごとだけでは通らない現代社会を映し出す作品なのかもしれない。

 コミックスは第4巻が発売中です。

 ギャグコメディが好きな自分にとっては、少々、珍しい漫画を読んだなと思います。