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漫画 『ブルーピリオド』 1巻 感想

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 漫画『ブルーピリオド』。作者は、山口つばささん。主人公は、高校ニ年生の矢口八虎(やぐち やとら)。DQNとなっているが、オールナイトで友人たちとサッカーを観戦し、酒を飲み、特に好きでもないタバコも吸う主人公・八虎。ごくごく普通の不良である。しかし根は真面目で努力家。負けん気も強い。その彼が美大進学を目指す物語。

 不良といってもケンカをすることも無く、また成績は抜群で、早稲田大学・慶応大学への進学も可能なレベル。しかし勉強そのものが特に好きなわけではなく、ゲームのステージをクリアしていくくらいの感覚でしかない。もちろんそれなりの努力はしており、友人たちは優等生と思っている。しかし実際は親に言われて勉強しているだけで、学年4位の成績を取ってもどこか勉強にも、そして遊びにも夢中になれないことを自覚している。

 美術の授業で課題として出された「私の好きな風景」という絵を描くことになった主人公は、前に見た美術部の部員が描いた絵に衝撃を受けたいきさつから、友人らとの徹夜帰りで目にしてきた渋谷の街の風景を描いた。八虎が感じ取った青色で塗りつぶした渋谷の街の絵だ。

 ところが、その青い絵は、美術の先生や同級生たちに褒められ、主人公・八虎は少々、照れてしまう。成績優秀で、友人たちとも意気投合し、それなりに満足できる高校生活を送っているにもかかわらず、何をやっても出来て当たり前のごとく手ごたえを感じることができない。そんな彼が自分の描いた絵を褒められて照れてしまったのだ。学年4位のテストの成績を褒められても何とも思わない彼がだ。そして同時に、これまでになかった「人と初めて会話をした」という感覚を覚えるのだ。

 このことが原因となり、八虎を美術の世界へ導き、美大に進学する決意させる。いわば、絵を描くことが自分にとって夢中になれることと感じ始めたのだ。目指すは超難関校・国立東京藝術大学だ。

 主人公・八虎は美術にはまったく縁がない。そのため作品は彼が途中入部した高校の美術部の活動を丁寧に描いている。持ち前の真面目さと努力で、難しい美術の課題に当たっても主人公がクリアしていくその様を見ることによって、美術の知識がない、あるいは興味がない人でも、グングンと話を読み進めることができるのが特徴だ。作者・山口つばささんの巧みなストーリー展開によるものと言える。

 「初めて人と会話した」という感覚を別の言葉で、かつ、美術の世界における創作行為で示すと「表現する」になる。普段の日常会話とは違う「別の次元の会話」だ。「表現」(美術に限らず、音楽、写真、舞踊など)という世界を、今後、出すのかどうか分からないが、努力し、ステージをクリアする様子は、読んでいて楽しいスポ根の王道だ。

 しかし、初めての美術の世界というだけでも逃げ出したくなるほどの難しさはある。そして上には上がいるということをまざまざと見せつけられるこの作品は、興味本位で芸術の世界を目指すべきではないと警告しているとも言える。高校二年生が将来の進路を決める大切な時期なのだ。趣味で絵を描くのはダメなのか、という疑問をあっさりかたずけていることも良いとも悪いとも言えない。もちろん皆が行うようにレールに乗って生きていく方が楽だとも言わない。

 単なる美術の楽しさを伝えるための作品なのか。それとももっと深いテーマがこれから出てくるのか。興味深い作品だ。

 コミックスは1巻が発売中です。作中に出てくるデッサンの絵などは実在する人たちの作品が使われています。